糖尿病と腎臓の関係 ―― 透析を防ぐために、今できること

糖尿病の合併症のなかでも、とくに注意したいのが腎臓の障害「糖尿病性腎症(糖尿病関連腎臓病)」です。腎臓は、いったん大きく傷むと元に戻りにくく、進行すると人工透析が必要になることもあります。しかし、早く気づいて適切に対策すれば、その進行を大きく遅らせることができます。今回は、糖尿病と腎臓の関係、早期発見のための検査、そして透析を回避するために日々できることを、腎臓を専門とする立場から解説します。

なぜ糖尿病で腎臓が悪くなるのか

腎臓は、血液をろ過して尿をつくり、体内の水分・塩分・老廃物のバランスを整える、いわば「体の浄水場」です。その働きは、糸球体と呼ばれる細い血管の塊が担っています。

高血糖の状態が続くと、この細い血管に負担がかかり、少しずつ傷んでいきます。すると、本来は血液にとどまるべきタンパク質が尿にもれ出したり、老廃物をろ過する力が落ちたりしていきます。これが糖尿病性腎症です。糖尿病のある方のおよそ2割が腎症を発症するとされ、日本では、新たに人工透析を始める原因の第1位が、この糖尿病性腎症です。決して他人事ではありません。

こわいのは「症状が出ないこと」

糖尿病性腎症が無症状のうちに進行し、微量アルブミン尿が早期発見のカギであることを示す図

糖尿病性腎症のもっともやっかいな点は、初期にはまったく自覚症状がないことです。痛くもかゆくもないため、気づかないうちに進行し、むくみや倦怠感といった症状が出るころには、かなり腎機能が低下してしまっていることも少なくありません。

だからこそ、症状に頼るのではなく、定期的な検査で早く見つけることが決定的に大切です。腎症の最初のサインは、「微量アルブミン尿」といって、尿にごく少量のタンパク(アルブミン)がもれ始めた状態です。この段階で見つけて手を打てれば、進行を防いだり、改善させたりできる可能性が高くなります。ふつうの尿検査ではとらえきれないため、専用の検査で調べます。

進行すると現れるサイン

早期には無症状ですが、腎症がある程度進むと、少しずつサインが現れてきます。たとえば、足やまぶたのむくみ、疲れやすさ、貧血、夜間に何度もトイレに起きる、尿が泡立つ、といった変化です。ただし、これらの症状が出てきた時点では、すでに腎機能がかなり低下していることも多いため、「症状が出てから」では遅い場合があります。やはり、症状のない早い段階での検査が何より大切です。

腎臓の状態を知る検査

腎臓の状態は、主に次の検査で確認します。

尿蛋白・尿アルブミン:本来は血液にとどまるべきタンパクが尿にもれていないかを調べます。微量アルブミン尿は、腎症のごく早期のサインです。

eGFR(推算糸球体ろ過量):腎臓が血液をろ過する能力を推定した数値で、低いほど腎機能の低下を示します。

クレアチニン:筋肉から出る老廃物で、腎機能が落ちると血液中の値が上がります。

これらは、いずれも採血と採尿で調べられます。健診で「尿蛋白が出ている」「eGFRが低い」「クレアチニンが高い」と指摘された方は、症状がなくても、放置せず一度ご相談ください。

透析を防ぐ ―― 進行をおさえる3つの柱

糖尿病性腎症の進行を防ぐための血糖・血圧・脂質と生活習慣の3つの柱を示した図

糖尿病性腎症の進行をおさえるには、次の三つを総合的に整えることが重要です。

① 血糖のコントロール

まず基本となるのが血糖の管理です。血糖の指標であるHbA1cを、一般に7%未満を一つの目安として良好に保つことで、腎症をはじめとする合併症のリスクを減らせることが分かっています。大規模な研究でも、血糖をしっかり管理した群では、腎臓や目などの細い血管の合併症がおよそ25%減少したことが示されています。近年では、SGLT2阻害薬という、血糖を下げると同時に腎臓を保護する効果をもつ薬も登場しました。この薬を用いた研究では、腎不全などに至るリスクがおよそ30%低下したことが報告されています。

② 血圧のコントロール

高血圧は、腎臓の細い血管にさらに負担をかけ、腎症を進めます。血圧の目標は、一般には140/90mmHg未満ですが、腎症などがある場合はより厳しく130/80mmHg未満が目安です。とくに、尿にタンパクが出ている方では、腎臓を守る作用をあわせもつタイプの降圧薬が選ばれることもあります。

③ 脂質の管理と生活習慣

コレステロールなどの脂質異常は動脈硬化を進め、腎臓や心臓の血管にも影響します。血糖・血圧とあわせて、脂質も整えることが大切です。生活面では、腎機能に応じてタンパク質を摂り過ぎない(目安として体重1kgあたり0.8g程度)、塩分を1日6g未満に控える、適度な運動を続ける、禁煙する、適正な体重を保つ、といったことが腎臓を守る力になります。ただし、タンパク質の制限は自己流で行うと栄養不足を招くため、必ず主治医や管理栄養士と相談しながら進めてください。

当院での糖尿病・腎臓の診療

当院では、糖尿病と腎臓の両面から、患者さんの状態を確認しています。血糖値・HbA1c、尿蛋白・尿アルブミン、eGFR・クレアチニン、血圧、脂質、尿酸、体重、内服薬、過去の検査結果などを総合的にみて、その方に合った対策をご提案します。

診療体制として、水曜日・木曜日は腎臓内科医が、腎機能の低下や尿蛋白を指摘された方の専門的な診療を行っています。また、金曜日の午前は糖尿病・内分泌内科の医師が、血糖コントロールや薬の調整のご相談に対応します。「糖尿病専門で相談したい方は金曜午前」「腎機能もあわせて相談したい方は水曜・木曜」を一つの目安に、初めての相談はほかの診療日でも承ります。

糖尿病性腎症は、早く気づいて対策を始めるほど、透析を回避できる可能性が高まります。健診で腎臓や尿の異常を指摘された方、糖尿病で腎臓が心配な方は、どうぞお早めにご相談ください。

よくある質問

Q. 糖尿病だと、みんな腎臓が悪くなるのですか?
A. いいえ、全員ではありません。血糖・血圧・脂質をしっかり管理し、定期的に検査を受けて早く対応できれば、腎症を防いだり、進行を大きく遅らせたりすることが十分に可能です。

Q. 一度下がった腎機能は、元に戻りますか?
A. 大きく低下してしまった腎機能を元どおりに戻すことは、一般には難しいのが実情です。だからこそ、まだ大きく低下していない早い段階で見つけ、それ以上悪くしないことが治療の目標になります。

Q. 健診で尿蛋白が「±」でした。様子を見てよいですか?
A. 一度だけの結果では判断が難しいですが、繰り返し出る場合や、糖尿病・高血圧がある場合は、詳しい検査をおすすめします。「症状がないから大丈夫」と自己判断せず、一度ご相談ください。

参考文献

  • Perkovic V, Jardine MJ, Neal B, et al. Canagliflozin and Renal Outcomes in Type 2 Diabetes and Nephropathy (CREDENCE). New England Journal of Medicine. 2019;380(24):2295–2306.
  • UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes (UKPDS 33). The Lancet. 1998;352(9131):837–853.