「睡眠」と血糖の深い関係 ―― 眠りを整えることも糖尿病対策


糖尿病の対策というと、食事と運動をまず思い浮かべる方が多いと思います。しかし、それらと同じくらい血糖に影響していながら、見落とされがちなものがあります。それが「睡眠」です。実は、眠りが足りなかったり、逆に長すぎたり、質が悪かったりすると、血糖が上がりやすくなり、糖尿病のリスクが高まることが分かっています。睡眠は、頑張って何かを足す対策とは違い、整えることで血糖にも体全体にもよい影響が広がる、いわば「土台」のようなものです。今回は、睡眠と血糖の関係を研究の数字とともに紹介し、あわせて血糖にやさしい眠り方の工夫について、分かりやすく解説します。

なぜ睡眠不足で血糖が上がるのか

睡眠不足がインスリン抵抗性・食欲ホルモン・ストレスホルモンを介して血糖を上げる仕組みの図

睡眠が足りないと、体の中ではいくつもの変化が起こり、血糖を上げる方向に働きます。

まず、睡眠不足はインスリンの効きを悪くします。十分に眠れていないと、血糖を下げるホルモンであるインスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)になり、同じ食事でも血糖が下がりにくくなります。

次に、食欲を調整するホルモンのバランスが崩れます。睡眠が不足すると、食欲を抑えるホルモン(レプチン)が減り、食欲を高めるホルモン(グレリン)が増えるため、とくに甘いものや高カロリーのものを食べたくなり、過食につながりやすくなります。実際、寝不足の翌日についお菓子や甘い飲み物に手が伸びてしまう、という経験のある方も多いのではないでしょうか。これは意志の弱さではなく、ホルモンの働きによるものなのです。加えて、寝不足で活動時間が長くなると、夜食や間食の機会も増えます。さらに、睡眠不足は体にとってストレスであり、血糖を上げるストレスホルモン(コルチゾール)や交感神経の働きも高めてしまいます。こうした複数の経路が重なって、睡眠不足は血糖を押し上げるのです。

数字で見る「睡眠時間」と糖尿病

睡眠時間と糖尿病リスクがU字型で、7〜8時間が最も低いことを示すグラフ

睡眠と糖尿病の関係は、多くの研究をまとめた解析で具体的に示されています。ポイントは、睡眠時間と糖尿病リスクが「U字型」の関係にあることです。つまり、短すぎても長すぎてもリスクが上がり、最もリスクが低いのは1日7〜8時間の睡眠でした。

信頼性の高い解析では、睡眠時間が短い(1日5〜6時間以下)人は、適切な睡眠の人に比べて2型糖尿病になるリスクがおよそ1.28倍でした。一方、睡眠時間が長すぎる(1日8〜9時間超)人でも、リスクはおよそ1.48倍に高まっていました。別の大規模な解析でも、7時間を基準として、睡眠が1時間短くなるごとに糖尿病のリスクがおよそ9%ずつ増えることが示されています。毎日のわずかな睡眠時間の差が、積み重なって将来の健康に影響してくるということです。「たかが寝不足」と侮れない数字です。

「時間」だけでなく「質」も大切

大切なのは睡眠の長さだけではありません。眠りの「質」も血糖に関わります。寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、ぐっすり眠れた感じがしない――こうした不眠の傾向がある人も、糖尿病のリスクが高まることが報告されています。時間は足りているつもりでも、細切れで浅い睡眠では、体はしっかり休めていないのです。

なお、大きないびきをかく、寝ている間に呼吸が止まると指摘される、日中に強い眠気がある、という方は、睡眠時無呼吸症候群が隠れている可能性があります。この場合は睡眠そのものの質が大きく損なわれ、血糖にも悪影響をおよぼすため、専門的な検査・治療が有効です。心当たりのある方は、あわせてご相談ください。

夜ふかしや「不規則な睡眠」にも注意

睡眠の長さや質だけでなく、眠るタイミングの規則正しさも大切です。平日は寝不足で、休日に昼まで寝だめをする――このように睡眠のリズムが日によって大きくずれると、体内時計が乱れ、血糖を調整する働きにも影響することが知られています。休日と平日の起床時刻の差が大きい人ほど、代謝の状態が悪くなりやすいという指摘もあります。夜勤や交代勤務などで生活リズムが不規則になりがちな方は、とくに睡眠と食事のリズムに気を配りたいところです。できる範囲で、起きる時間をなるべく一定に保つことが、血糖の安定につながります。

血糖にやさしい眠り方の工夫

朝日を浴びる・寝る前のスマホを控えるなど睡眠を整える工夫のイラスト

眠りを整えることは、今日から始められる糖尿病対策です。いくつかのコツをご紹介します。

まず、毎日できるだけ同じ時間に起き、朝は太陽の光を浴びましょう。体内時計が整い、夜の寝つきがよくなります。日中に適度に体を動かすことも、質の良い睡眠につながります。夕方以降はカフェイン(コーヒー・緑茶・エナジードリンク)を控え、寝る前のお酒も避けましょう。アルコールは寝つきをよくするように感じても、夜中に目が覚めやすくなり、睡眠の質を下げます。就寝直前の食事や夜食は、血糖にも眠りにもよくありません。また、寝る前にスマートフォンの強い光を浴びると脳が覚醒してしまうため、寝室では控えるのがおすすめです。寝室は暗く静かに、快適な温度に保ちましょう。日中どうしても眠いときは、15〜20分程度の短い昼寝は問題ありませんが、夕方以降の長い昼寝は夜の睡眠を妨げるため避けましょう。

こうした工夫を一度にすべて行う必要はありません。まずは「起きる時間を一定にする」「寝る前のスマホをやめる」など、取り組みやすいものから一つ始めてみてください。睡眠は毎日のことだからこそ、小さな改善の積み重ねが、血糖にも大きく効いてきます。

すでに糖尿病の方にも大切です

睡眠と血糖の関係は、糖尿病を予防する段階だけの話ではありません。すでに糖尿病で治療中の方にとっても、良い睡眠は血糖コントロールを助けてくれます。逆に、血糖が乱れると眠りも浅くなりやすく、睡眠と血糖はお互いに影響し合っています。食事・運動・お薬に加えて、「眠り」もぜひ大切にしてください。

眠りの悩みや日中の強い眠気が続く方、血糖がなかなか安定しない方は、当院までお気軽にご相談ください。生活習慣全体を見ながら、その方に合った改善のヒントを一緒に考えていきます。


参考文献

  • Cappuccio FP, D’Elia L, Strazzullo P, Miller MA. Quantity and Quality of Sleep and Incidence of Type 2 Diabetes: A systematic review and meta-analysis. Diabetes Care. 2010;33(2):414–420.
  • Shan Z, Ma H, Xie M, et al. Sleep Duration and Risk of Type 2 Diabetes: A Meta-analysis of Prospective Studies. Diabetes Care. 2015;38(3):529–537.