トイレのあとに尿から甘酸っぱいような、これまでと違うにおいを感じる——そんな変化に気づいて、不安になっている方もいるかもしれません。尿のにおいは、食べたものや水分の量でも日常的に変わるため、多くは心配のいらないものです。ただ、甘いにおい・甘酸っぱいにおいが続くときは、糖尿病に関わる体の変化を映していることがあります。
このページでは、調布市つつじヶ丘駅前内科クリニックが、糖尿病で尿のにおいが変わる仕組みと、見逃してはいけない危険なサインについて、医学的な根拠をもとに解説します。
尿が甘いにおいになるのは「ケトン体」が関係しています

糖尿病で尿が甘酸っぱいにおいになる背景には、「ケトン体」という物質があります。少し順を追って説明します。
インスリンの働きが不足すると、血液中にブドウ糖があっても、体はそれをエネルギーとしてうまく取り込めなくなります。エネルギー不足に陥った体は、代わりに脂肪を分解してエネルギーを得ようとします。このとき肝臓でつくられるのがケトン体です。
ケトン体は、βヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトンという3種類の物質の総称で、体内での割合はおよそβヒドロキシ酪酸78%、アセト酢酸20%、アセトン2%とされています(Sun MH, et al. J Breath Res. 2015 系統的解説より)。このうちアセトンは、果実のような甘いにおい(fruity odor)を持つことが知られています。ケトン体が増えると、尿や呼気を通じて体の外に排出され、これが尿の甘いにおいや、甘酸っぱい口臭として感じられるのです。
米国糖尿病学会(ADA)の最新のコンセンサスレポート(2024年)でも、重い糖尿病の急性期にみられる特徴的な深い呼吸(クスマウル呼吸)に、アセトンによる果実様のにおいが伴うことが明記されています(ElSayed NA, et al. Diabetes Care. 2024)。
甘いにおいは、危険なサインかもしれません ― 糖尿病性ケトアシドーシス

ここが最も重要なポイントです。尿や息が甘いにおいになるほどケトン体が増えているとき、「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」という緊急性の高い状態に近づいている可能性があります。
DKAは、極端なインスリン不足によってケトン体が過剰にたまり、血液が酸性に傾いてしまう危険な病態です。特に1型糖尿病で起こりやすいほか、2型糖尿病でも感染症などをきっかけに発症することがあります。国際的な診断基準では、次のような数値が目安とされています(ADAほか、複数の国際ガイドラインで概ね一致)。
- 血糖値 250mg/dL以上(11.1mmol/L以上)
- 動脈血pH 7.30未満(血液が酸性に傾く)
- 重炭酸イオン(HCO3−)18mmol/L未満
- 血液または尿のケトン体が陽性
DKAでは、甘いにおいのほかに、強い喉の渇き、多尿、吐き気・嘔吐、腹痛、意識がぼんやりするといった症状が現れます。放置すると命に関わることもあるため、こうした症状が重なる場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
<mark><要確認:この段落は緊急性のある病態の注意喚起です。とくに強い症状(嘔吐・意識障害など)がある場合は救急受診が必要な旨を、院内の方針に合わせて添えてください>
「尿のにおい・尿ケトンが正常だから安心」とは限りません
一点、正確にお伝えしておきたいことがあります。
一般的な尿検査でケトン体を調べる方法(ニトロプルシド法)は、ケトン体のうち「アセト酢酸」を主に検出しますが、DKAの初期に最も早く増える「βヒドロキシ酪酸」をほとんど検出できません。そのため、実際にはケトン体が増え始めていても、尿検査では陰性に出てしまうことがあります(Dhatariya KK. 総説ほか)。
また、腎臓の機能が低下していると、ケトン体の尿への排出そのものが妨げられることもあります。つまり、「尿のにおいや尿ケトンに異常がない=糖尿病やケトアシドーシスの心配がない」とは言い切れないということです。においはあくまで一つのきっかけであり、確実な判断には血液検査が欠かせません。
なお近年は、呼気に含まれるアセトン濃度が、血中のケトン体(アセト酢酸やβヒドロキシ酪酸)と強く相関する(相関係数R=0.82〜0.89)ことも報告されており、非侵襲的な指標として研究が進んでいます(Anderson JC, et al. ほか)。
においだけで糖尿病とは決められません
尿のにおいや性状は、糖尿病以外のさまざまな要因でも変化します。次のような場合は、一時的なものであることがほとんどです。
- 水分不足や発汗による脱水で、尿が濃くなっているとき
- 甘い飲み物をたくさん摂ったあと
- 塩分の多い食事のあと
- 特定の食べ物(アスパラガスなど)や一部の薬・サプリメントの影響
- 尿路感染症(膀胱炎など)によるにおいの変化
大切なのは、においの変化が「一時的か、続いているか」です。甘いにおいが数日以上続く、喉の渇きや多尿・体重減少など他の症状も重なるという場合は、糖尿病が背景にある可能性を考えて、検査を受けることをおすすめします。
糖尿病で現れる、その他の尿の変化

糖尿病では、においのほかにも尿に次のような変化が現れることがあります。いずれも、これまでの症状ページで解説してきた内容と共通する、高血糖のサインです。
- 尿の量が増える・色が薄くなる:高血糖で糖が尿に漏れ、水分も一緒に排出される「浸透圧利尿」により、尿量が増え、薄い色の尿が多く出るようになります。
- 尿が泡立つ:糖尿病が進行して腎臓が傷むと、タンパク質が尿へ漏れ出し(タンパク尿)、消えにくい細かい泡が立ちやすくなります。
これらが重なって現れる場合は、より注意が必要です。
調布市で尿のにおい・糖尿病が気になる方へ
つつじヶ丘駅前内科クリニックは、京王線つつじヶ丘駅南口すぐの内科クリニックです。調布市内のほか、つつじヶ丘・仙川・柴崎・国領・狛江方面からも通院しやすい立地で、糖尿病や生活習慣病のご相談を承っています。
当院では、尿検査で尿糖・尿タンパク・尿ケトンを、血液検査で血糖値・HbA1cを迅速に確認でき、糖尿病の現在の状態を総合的に把握できます。腎臓を専門とする院長のもと、血糖値だけでなく腎臓や血管まで見据えた診療を行います。
尿のにおいの変化が続く、健診で血糖値・尿糖を指摘された、といった方は、どうぞお気軽にご相談ください。とくに、甘いにおいに加えて強い喉の渇き・吐き気・意識のぼんやりなどがある場合は、早めの受診をおすすめします。ご予約はLINE・WEBから可能です。
参考文献・出典
- ElSayed NA, et al. (American Diabetes Association). Hyperglycemic Crises in Adults With Diabetes: A Consensus Report. Diabetes Care. 2024;47(8):1257-1275.
- 日本糖尿病学会(編・著)「糖尿病診療ガイドライン2024」
- Dhatariya KK. The management of diabetic ketoacidosis in adults—An updated review.(DKAの診断・尿ケトン測定の限界に関する総説)
- Anderson JC, et al. Measuring breath acetone for monitoring fat loss / ketone correlation studies(呼気アセトンと血中ケトン体の相関に関する研究)
- 呼気・血中ケトン体の構成比および相関に関する研究(J Breath Res. ほか)
