「糖尿病だけど、たまにはお酒を楽しみたい」
診察室でよく伺うお気持ちです。友人との集まり、仕事の付き合い、一日の終わりの一杯。お酒は生活の一部であり、楽しみでもあります。それを一律に取り上げるようなお話をしたいわけではありません。
一方で、インターネットで調べると「適度な飲酒は糖尿病のリスクを下げる」という情報が見つかります。これは根拠のない話ではなく、実際に大規模な研究に基づいた数字です。
ただ、その研究には続きがあります。そして、その続きの部分こそが、日本に住む私たちにとっては本題かもしれません。
この記事では、その有名な研究を最後まで読んだうえで、お酒と血糖値の関係を整理します。

まず知っておきたいこと──お酒の量は「杯数」ではなく「グラム」で数える
先に、話の土台をそろえます。
「どのくらい飲まれますか」とお聞きすると、多くの方が「ビールを2本」「焼酎を2杯」と答えられます。ただ、この答え方では体への負担を比べられません。同じ「2杯」でも、中身のアルコールの量がまったく違うからです。
厚生労働省が2024年2月に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では、飲んだお酒の量(ml)ではなく、そこに含まれる純アルコール量(g)に着目することが重要だとされています。計算式は次のとおりです(文献1)。
純アルコール量(g)= 摂取量(ml)× アルコール度数 ÷ 100 × 0.8
度数5%のビール500mlなら、500 × 0.05 × 0.8 = 20g。度数9%のチューハイ350ml缶なら、350 × 0.09 × 0.8 = 約25g。缶は小さいのに、ロング缶ビールより純アルコール量は多くなります。「1本だけ」という感覚が、実際の負担とずれる典型例です。
この記事に出てくる数字は、すべてこの「g」で書きます。以降、頭の中で杯数からgに換算しながらお読みください。

「18%減少」の研究には、続きがあります
さて、本題です。
2015年に医学雑誌『Diabetes Care』に掲載された研究をご紹介します。38の観察研究をまとめ、1,902,605人(約190万人)のデータと、125,926人の2型糖尿病発症例を解析した、非常に規模の大きな系統的レビュー・用量反応メタ解析です(文献2)。
この研究が示した数字は、次のとおりです。
- 飲まない人と比べて、1日63g未満のすべての飲酒量で、2型糖尿病のリスク低下がみられた
- リスク低下が最大になったのは1日10〜14gで、その低下幅は18%
- 1日63gを超えると、逆にリスクは上昇に転じた
1日10〜14gは、ビール中ジョッキ半分、ワイングラス1杯程度です。「適度な飲酒は糖尿病リスクを18%下げる」という話は、ここから来ています。
ここまでは、よく紹介される部分です。問題は、この先です。
その効果は、女性だけのものだったかもしれない
同じ論文は、データを層別に分けて解析しています。その結果、次のことが分かりました(文献2)。
- リスク低下は、女性においてのみ特異的であった可能性がある
- アジア人集団を対象とした研究では、リスク低下は認められなかった
そして論文の結論は、こう書かれています。適度な飲酒者におけるリスク低下は、女性および非アジア人集団に限られる可能性がある——。
つまり、この研究が示した「18%」は、日本人男性に当てはめられる数字ではない可能性が高い、というのが論文自身の見解です。「適度な飲酒は糖尿病リスクを下げる」という見出しだけを読んで、日本人の男性が自分に当てはめるのは、この論文の読み方としては正しくありません。
「飲まない人」の中身が問題だった
もう一つ、同じ論文が指摘している点があります。
この種の研究では、「飲む人」と「飲まない人」を比べます。ところが、「飲まない人」のグループには、2種類の人が混ざります。
- もともと一度も飲んだことがない人
- かつて飲んでいたが、体調を崩したなどの理由でやめた人
2番目の方々は、やめた時点ですでに健康状態が悪い可能性があります。この方々が「飲まない人」として比較の土台に入ると、飲む人のほうが相対的に健康に見えてしまいます。お酒が健康にしたのではなく、健康を損なった人が「飲まない人」の側に集まっていた、という順序の逆転です。
この論文は、生涯非飲酒者だけを対照とした研究では、リスク低下が認められなかったことを報告し、リスク低下が過大評価されていた可能性を結論に明記しています(文献2)。
このような偏りは、飲酒研究の分野でよく知られたものです。「少量の飲酒は体に良い」というJ字型の関係が近年見直されつつある背景には、こうした指摘があります。
日本のガイドラインは、どう書いているか
では、日本の専門学会はどう整理しているでしょうか。
日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』第21章は、次のように記載しています(文献3)。
- 適量範囲内の飲酒者が非飲酒者よりリスクが低いとする仮説は、アジア人では議論があり、J字型の関連があるとする研究とないとする研究の両方がある
- リスク軽減のための飲酒は推奨されない
- 日本では、痩せ型の男性(BMI 22以下)の中等量以上の飲酒習慣や、1回あたりの量が多い飲酒習慣が、発症リスクを上昇させると報告されている
- 多くのがんや脳萎縮のリスクには、J字型の関連は認められない
「痩せているから大丈夫」ではなく、むしろ痩せ型の男性でリスク上昇が報告されている点は、意外に思われるかもしれません。
米国糖尿病学会(ADA)の診療基準「Standards of Care in Diabetes—2026」も、もともと飲まない人に対して、飲酒を始めることを勧めないと明記しています(文献4)。
まとめると、「健康のためにお酒を飲む」という選択肢は、現時点の科学的根拠からは支持されていません。すでに飲んでいる方に「今日から一滴もやめてください」と申し上げる話とは、まったく別の問題です。この記事も、そういう話をしたいわけではありません。

すでに糖尿病がある方は、話が変わります
ここまでは「まだ糖尿病になっていない人が、これから発症するリスク」の話でした。すでに糖尿病がある方の場合、注意すべき点はまったく別のところにあります。
飲んだ夜と、翌朝で、血糖値は逆に動く
お酒が血糖値を上げるのか、下げるのか。答えは「時間帯によって逆になる」です。
飲んでいる最中〜数時間後は、上がりやすい。ビール、日本酒、甘いチューハイ、梅酒などに含まれる糖質。唐揚げや締めのラーメンといったおつまみ。そして飲酒によって満腹感の判断がゆるみ、普段より食べてしまうこと。これらが重なります。
深夜から翌朝は、下がりやすい。肝臓は、食事をしていない時間帯に、血糖値が下がりすぎないようブドウ糖を作り出しています(糖新生)。ところが体にとってアルコールは優先的に処理すべき物質であり、肝臓がその分解に取りかかっている間、糖を作る働きは抑えられます。
これは実験で確かめられています。1型糖尿病の男性6名に、午後9時に辛口白ワイン(体重1kgあたり0.75gのアルコール)を飲んでもらった日と、ミネラルウォーターを飲んだ日を比較した研究では、ワインの日は翌朝の朝食後、午前10時から正午にかけて6名中5名が症状を伴う低血糖を起こし、血糖値は最低で34〜52mg/dL程度まで低下しました。研究者らは、夜間の成長ホルモン分泌が減っていたことが関係していると報告しています(文献5)。
飲んだのは夜9時、低血糖が起きたのは翌日の昼近く。14時間以上の時間差があります。
持続血糖測定(CGM)を用いた別の研究でも、夕方に飲酒した場合、その後24時間の平均グルコース値が約22mg/dL低かったと報告されています(文献6)。血糖値が全体的に低いところで推移するため、ふとしたきっかけで低血糖の域に落ちやすくなる、というイメージです。
ADAの2026年版診療基準も、飲酒に伴うリスクとして低血糖および遅発性低血糖を明記し、飲酒前後の血糖測定を勧めるよう推奨しています(文献4)。
とくに注意が必要なのは、どの薬を使っている人か
すべての方に同じ注意が必要なわけではありません。低血糖という観点で、とくに注意が要るのは次の場合です。
- インスリン注射
- SU薬(スルホニル尿素薬)
- グリニド薬(速効型インスリン分泌促進薬)
これらは単独でも低血糖を起こしうる薬で、そこに飲酒による糖新生の抑制が重なります(文献4)。
メトホルミン、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬などを単独で使っている場合、薬そのものが低血糖を起こす頻度は高くありません。ただし「まったく心配ない」わけではなく、食事をとらずに飲む場合や量が多い場合には、脱水やケトン体の上昇など別の問題が生じることがあります。
低血糖は、酔いと見分けがつきません
見落とされがちですが、重要な点です。
冷や汗、ふらつき、呂律が回らない、様子がおかしい——これらは酔いの症状でもあり、低血糖の症状でもあります。飲み会の席で低血糖を起こしても、周囲は「酔っているだけ」と判断し、対応が遅れることが起こりえます。
血糖を下げる薬を使っている方が飲酒される場合は、ご家族や同席する方にこのことを伝えておいてください。これは、ご本人の努力だけでは補えない部分です。

血糖値以外に、お酒が動かしている数値
健診結果の項目は連動しています。飲酒は、血糖値だけを動かしているわけではありません。
体重 アルコールは1gあたり約7kcal。純アルコール40g(ビール1L相当)だけで約280kcalです。おつまみのカロリーは、これに上乗せされます。
血圧 厚労省ガイドラインの疾病別の表では、高血圧は男女とも「少しでも飲酒するとリスクが上がる」と考えられる疾患に分類されています(文献1)。逆に言えば、減酒は降圧につながります。36試験・2,865名を対象としたメタ解析では、1日6ドリンク以上飲んでいた人が飲酒量を約50%減らすと、収縮期血圧が平均5.50mmHg、拡張期血圧が平均3.97mmHg低下しました。一方、もともと1日2ドリンク以下だった人では、減酒による有意な血圧低下は認められていません(文献7)。よく飲む方ほど、減らしたときの見返りが大きいという関係です。
中性脂肪・尿酸 飲酒は中性脂肪や尿酸値を上げる方向に働きます。健診で「血糖も中性脂肪も尿酸も、どれも少しずつ高い」というパターンの方では、飲酒がその複数に共通して関わっている可能性があります。
肝臓・腎臓 γ-GTPやAST、ALTの上昇は、飲酒量を見直すサインになることがあります。また高血圧は腎臓に負担をかける代表的な要因です。血糖・血圧・尿酸のいずれもが飲酒と関係しうるという意味で、飲酒は腎臓にとっても無関係ではありません。
がん 厚労省ガイドラインの表によれば、日本人を対象とした研究に基づく限り、大腸がんは男女とも1日20g程度から、男性の食道がんは少量でもリスクが上がると考えられています(文献1)。なお日本人の約41%は、飲むと顔が赤くなる体質(フラッシング反応)を持つとされ、この体質の方では口腔がんや食道がんのリスクが高くなるというデータがあります。「昔は弱かったが今は飲める」ことは、リスクが消えたことを意味しません(文献1)。
それでも飲む場合に、押さえておきたい3つのこと
ここまで読んで、「では、どうすればいいのか」と思われたはずです。すでに飲む習慣のある方に向けて、3点だけ。
1. 量を決めてから飲む
厚労省ガイドラインは、国内の目標値として生活習慣病のリスクを高める量を1日あたり純アルコール男性40g以上、女性20g以上とし、1回の飲酒機会で60g以上の摂取は避けるべきとしています(文献1)。ただし同ガイドラインは、これらが個々人の許容量を示したものではないと注記しています。「40gまでは飲んでよい」という許可の数字ではありません。
ADAは、飲酒する場合の目安として男性は1日2ドリンク以下、女性は1日1ドリンク以下(1ドリンク=ビール約350ml、ワイン約150ml、蒸留酒約45ml)としています(文献4)。日本糖尿病学会も治療ガイドで、飲酒量の目安を1日25g程度までとし、肝疾患や合併症などの問題がある場合は禁酒としています(文献8)。
そして「あらかじめ飲む量を決めておく」「1週間のうち飲酒しない日を設ける」ことは、厚労省ガイドラインが挙げる具体的な工夫です(文献1)。決めてから座るのと、座ってから考えるのとでは、結果がまるで違います。
2. 空腹で飲まない
飲酒前または飲酒中に食事をとることは、血中アルコール濃度を上がりにくくします(文献1)。血糖の観点からはさらに重要で、食事をとらずにお酒だけを飲むと、肝臓が糖を作れない状態と、食事から糖が入ってこない状態が重なります。低血糖にとって最悪の組み合わせです。
ただしこれは「食べれば飲んでよい」という意味ではなく、量を守ったうえでの工夫です。
3. お酒の種類より、まず量
ビール、日本酒、甘いカクテル、梅酒は糖質を含み、飲んだ直後の血糖上昇に影響します。焼酎やウイスキーなどの蒸留酒は糖質をほとんど含みません。糖質の少ないお酒を選ぶことには、一定の意味があります。
ただし、順序を間違えないでください。糖質ゼロでも、アルコールはアルコールです。肝臓での糖新生の抑制(=翌朝の低血糖リスク)、1gあたり約7kcalのエネルギー、血圧・中性脂肪・尿酸への影響は、糖質の有無では変わりません。「糖質ゼロだから量は気にしなくてよい」は、成り立ちません。
受診を急いだ方がよいサイン
すぐに救急要請・救急受診を検討すべき状態
- 飲酒後、意識がもうろうとして呼びかけに反応しない、揺すっても起きない(急性アルコール中毒、または重症低血糖の可能性)
- けいれんを起こした
- 飲酒後に激しい腹痛・背中の痛みが続き、嘔吐を繰り返す(急性膵炎の可能性)
- 吐血、または黒いタール状の便が出た
- 冷や汗を伴う強い胸の痛み、または息苦しさが続く
- 血糖を下げる薬を使っている方で、ブドウ糖を摂っても改善しない低血糖
数日以内に医療機関を受診した方がよい状態
- 飲んだ翌朝に、冷や汗・動悸・強いだるさ・手の震えを繰り返している
- インスリン、SU薬、グリニド薬を使用していて、飲酒の習慣がある
- 健診で血糖値やHbA1cの異常を指摘され、そのままになっている
- 体重が意図せず減ってきた、または急に増えた
- 足がむくむ、尿が泡立つようになった
外来で相談していただきたい状態
- 飲酒量を減らそうとしても、うまくいかない
- 「休肝日を作ろう」と決めても続かない
- 飲む量が、以前より確実に増えている
最後の3つは、意志の強さの問題として片づけられがちですが、医学的に相談する価値のあるテーマです。ご自身を責める必要はありません。

医療機関では何を調べるか
問診 最も重要な情報源です。お聞きするのは「回数」ではなく純アルコール量、そして飲酒時の食事内容、休肝日の有無、飲んだ翌朝の体調、家族歴、服用中の薬です。正直にお話しいただくほど、判断の精度が上がります。責めるためにお聞きするのではありません。
診察・血圧測定 血圧、体重、腹囲、むくみの有無、肝臓の状態などを確認します。
血液検査 血糖値、HbA1c、肝機能(AST・ALT・γ-GTP)、中性脂肪・HDLコレステロール・LDLコレステロール、尿酸、腎機能(クレアチニン・eGFR)、血算など。飲酒の影響は、複数項目の組み合わせから読み取れることがあります。
尿検査 尿たんぱく、尿糖、尿潜血など。
心電図・超音波検査・酸素飽和度測定 動悸や胸の症状がある場合、脂肪肝や腎臓の評価が必要な場合に行います。
必要に応じた追加評価 いびきや日中の強い眠気がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性を検討します。睡眠時無呼吸は飲酒によって悪化しうることが知られており、血糖の観点からも無関係ではありません。
つつじヶ丘駅前内科クリニックでできること
当院(東京都調布市・つつじヶ丘駅前/内科・腎臓内科・アレルギー科)では、このテーマに関して次の診療が可能です。
- 内科診察・腎臓内科診察
- 血圧測定
- 血液検査(血糖値、HbA1c、肝機能、脂質、尿酸、腎機能など)
- 尿検査(尿たんぱく、尿糖など)
- 心電図検査
- 超音波検査
- 酸素飽和度測定
- 健康診断結果のご相談(結果用紙をお持ちください。過去の分もあれば、変化を追えます)
- 生活習慣病のご相談(高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症・痛風)
- 慢性腎臓病の評価
- 睡眠時無呼吸症候群の自宅簡易検査
- 健康診断・予防接種
- 必要に応じた専門医療機関へのご紹介
対象は予約優先制です。ご予約はLINE・WEB・お電話から承っており、キャッシュレス決済に対応しています。
飲酒についてのご相談で、量を隠す必要はありません。実際の量が分からなければ、目安の設定もできません。「減らせと言われるのが嫌で受診しない」という状態が、いちばん避けたい状況です。

当院で対応できない場合
当院でできないことは、はっきりお伝えします。
- CT・MRIなどの画像検査:当院では実施していません。膵臓や肝臓の精密な評価が必要と判断した場合は、連携医療機関をご案内します。
- 内視鏡検査:当院では実施していません。飲酒と食道がん・胃がんの関連が指摘されており、とくにフラッシング体質で飲酒歴の長い方では内視鏡による評価が望ましい場合があります。その際は実施可能な医療機関をご紹介します。
- 入院を要する治療:急性膵炎、重症の低血糖、アルコール性肝障害の重症例、糖尿病の急性代謝失調などで入院が必要な場合は、病院での対応が必要です。
- 緊急処置:意識障害やけいれんなど緊急性の高い状態では、救急医療機関の受診が必要です。当院にお電話いただくより、救急要請を優先してください。
- アルコール依存症の専門治療:当院では専門的な治療プログラムを行っていません。ご本人やご家族がお困りの場合は、専門医療機関や相談窓口をご案内します。
「当院で完結できます」とは申し上げません。必要な場合に、必要なところへおつなぎするのも役割だと考えています。
FAQ(よくある質問)
Q1. 結局、「適度な飲酒は糖尿病に良い」は嘘だったのですか?
嘘というより、条件付きの話が、条件抜きで広まったというのが実際です。190万人を解析した研究で「1日10〜14gで18%のリスク低下」という数字が出たこと自体は事実です。ただし同じ論文が、その低下は女性および非アジア人に限られる可能性があり、比較対象となった「飲まない人」の中に体調を崩してやめた人が混ざっていたことで過大評価された可能性もある、と結論づけています(文献2)。日本糖尿病学会も、リスク軽減のための飲酒は推奨していません(文献3)。
Q2. 糖質ゼロのビールや、焼酎・ウイスキーなら血糖値は上がりませんか?
飲んだ直後の血糖上昇という点では、影響は小さくなります。ただし糖質がゼロでもアルコールは含まれており、肝臓での糖新生の抑制(=数時間後から翌朝の低血糖リスク)、1gあたり約7kcalのエネルギー、血圧・中性脂肪・尿酸への影響は変わりません。見るべき指標は、やはり純アルコール量です。
Q3. 飲んだ翌朝、ふらつくことがあります。二日酔いでしょうか、低血糖でしょうか?
自己判断では区別が難しいところです。血糖を下げる薬(インスリン、SU薬、グリニド薬)を使っている方であれば、遅発性低血糖の可能性を考える必要があります。冷や汗、動悸、手の震え、強い空腹感を伴う場合は、より低血糖らしい症状です。可能であれば症状が出ているときに血糖を測り、その値をお持ちのうえでご相談ください。繰り返している場合は、薬の内容や飲み方の見直しが必要かもしれません。
Q4. 週に1回、まとめて飲むのはどうですか?
避けた方がよい飲み方です。厚労省ガイドラインは、1回の飲酒機会での純アルコール摂取が60g以上になる「一時多量飲酒」を、身体疾患・急性アルコール中毒・外傷の危険を高めるものとして避けるべきとしています(文献1)。日本糖尿病学会のガイドラインでも、1回あたりの量が多い飲酒習慣が2型糖尿病の発症リスクを上げると報告されています(文献3)。「休肝日があるから、その分まとめて」は、残念ながら相殺になりません。
Q5. 健診結果を持って相談に行きたいのですが、何を準備すればよいですか?
直近の結果に加えて、可能であれば過去2〜3年分をお持ちください。一時点の数値より、変化のほうが多くを語ります。あわせて、現在服用中の薬(お薬手帳)、そして「1週間で、何を、どのくらい飲んでいるか」のメモがあると、その日のうちに具体的な目安をお話しできます。1週間の記録をつけていただくだけで、ご自身でも量に驚かれることがあります。
Q6. お酒をやめたいのですが、続きません。意志が弱いのでしょうか?
意志の問題として扱わなくて大丈夫です。厚労省ガイドラインでも、あらかじめ飲む量を決めておくこと、飲酒の合間に水や炭酸水を飲むこと、1週間のうち飲酒しない日を設けることなど、行動を変えるための具体的な工夫が挙げられています(文献1)。それでも難しい場合、背景にアルコール依存の問題が隠れていることもあります。
まとめ
- 「適度な飲酒は2型糖尿病リスクを18%下げる」という数字は、190万人を解析した実在の研究に基づいています。ただし同じ論文が、その効果は女性および非アジア人に限られる可能性があると結論づけています。日本人男性が自分に当てはめられる数字ではないかもしれません。
- 日本糖尿病学会は、リスク軽減のための飲酒を推奨していません。ADAも、飲まない人に飲み始めることを勧めていません。「健康のために飲む」という理由は、現時点では見当たりません。
- すでに糖尿病がある方は、発症リスクの話より低血糖の話が先です。飲んでいる最中は上がりやすく、深夜から翌朝にかけては下がりやすい。インスリン・SU薬・グリニド薬を使用中の方は、とくに注意してください。低血糖は酔いと見分けがつきません。
- 飲む場合は、①量を決めてから飲む ②空腹で飲まない ③種類より先に量、の3点を。飲酒量は杯数ではなく純アルコール量(g)で数えてください。
- 過度に不安になる必要はありません。一方で、健診で指摘された数値をそのままにしておく理由もありません。結果用紙と、1週間の飲酒量のメモをお持ちいただければ、その日から具体的な話ができます。
お酒を一律に否定するつもりはありません。ただ、「体に良いから飲む」ではなく「楽しみだから、量を決めて飲む」に置き換えていただくことが、現時点のデータに沿った付き合い方だと考えています。調布市つつじヶ丘周辺で、健診結果や飲酒についてご相談先をお探しの方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省.健康に配慮した飲酒に関するガイドライン.2024年2月. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38541.html (本文PDF:https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001223643.pdf )
- Knott C, Bell S, Britton A. Alcohol consumption and the risk of type 2 diabetes: a systematic review and dose-response meta-analysis of more than 1.9 million individuals from 38 observational studies. Diabetes Care. 2015;38(9):1804-1812. doi:10.2337/dc15-0710 / PMID: 26294775 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26294775/ ※原文が引用していた文献。結論部で、リスク低下が女性および非アジア人集団に限られる可能性、および対照群の混入による過大評価の可能性が指摘されている。
- 日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024.第21章 2型糖尿病の発症予防(Q21-5 アルコールや他の嗜好飲料は2型糖尿病の発症にどの程度関与するか?).南江堂,2024. https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/gl2024/21.pdf
- American Diabetes Association Professional Practice Committee. 5. Facilitating Positive Health Behaviors and Well-being to Improve Health Outcomes: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Supplement_1):S89-S131. doi:10.2337/dc26-S005 https://diabetesjournals.org/care/article/49/Supplement_1/S89/163932/
- Turner BC, Jenkins E, Kerr D, Sherwin RS, Cavan DA. The effect of evening alcohol consumption on next-morning glucose control in type 1 diabetes. Diabetes Care. 2001;24(11):1888-1893. doi:10.2337/diacare.24.11.1888 / PMID: 11679452 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11679452/
- Richardson T, Weiss M, Thomas P, Kerr D. Day after the night before: influence of evening alcohol on risk of hypoglycemia in patients with type 1 diabetes. Diabetes Care. 2005;28(7):1801-1802. doi:10.2337/diacare.28.7.1801 https://diabetesjournals.org/care/article/28/7/1801/28093/
- Roerecke M, Kaczorowski J, Tobe SW, Gmel G, Hasan OSM, Rehm J. The effect of a reduction in alcohol consumption on blood pressure: a systematic review and meta-analysis. Lancet Public Health. 2017;2(2):e108-e120. doi:10.1016/S2468-2667(17)30003-8 / PMID: 29253389 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29253389/
- 日本糖尿病学会.糖尿病治療ガイド(初診時の食事指導のポイント:アルコールの摂取は適量〈1日25g程度まで〉に留め、肝疾患や合併症など問題のある症例では禁酒とする).文光堂. https://www.jds.or.jp/uploads/fckeditor/files/uid000025_67756964655F323031382D323031395F30342E706466.pdf ※上記URLは2018-2019年版に基づく記載。公開前に最新版(糖尿病治療ガイド2024)で数値・表現に変更がないか要確認。
執筆者
つつじヶ丘駅前内科クリニック院長
医学博士・腎臓専門医・透析専門医・内科認定医
小出高彰
