糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が慢性的に高い状態が続く病気です。早期に発見し、早い段階から治療を始めることで、深刻な合併症を予防することができます。
ここでは、糖尿病の診断基準や検査方法について、日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」を基に分かりやすく解説します
糖尿病の診断基準
日本糖尿病学会が定める診断基準では、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)と血糖値を組み合わせて診断を行います。

※ 糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少など)
「糖尿病型」と判定される基準
次のいずれかに当てはまる場合、「糖尿病型」と判定されます。
・空腹時血糖値 126mg/dL以上
・75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値 200mg/dL以上
・随時血糖値 200mg/dL以上
・HbA1c 6.5%以上
血糖値とHbA1cの両方が「糖尿病型」であれば、1回の検査でも糖尿病と診断されます。血糖値のみ、あるいはHbA1cのみが「糖尿病型」の場合は、別の日に再検査を行って判定します。ただし、糖尿病の典型的な症状(口渇・多飲・多尿・体重減少など)がある場合や、糖尿病網膜症が確認された場合は、1回の血糖値検査だけで診断されることもあります。
検査項目

①血糖値検査
血糖値は食事の影響を受けるため、いくつかの測定方法があります。
【空腹時血糖値】
インスリンを分泌する能力を評価します。
測定方法:10時間以上絶食した状態で測定(朝食前が一般的)
・正常型:99mg/dL以下
・正常高値:100〜109mg/dL
・境界型(糖尿病予備群):110〜125mg/dL
・糖尿病型:126mg/dL以上
【随時血糖値】
食後の血糖上昇を把握します。
測定方法:食事の時間とは関係なく測定
・糖尿病型:200mg/dL以上
【75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)】(※当院では行っておりません)
境界型(糖尿病予備群)や糖尿病を早期に発見するための検査です。食後高血糖の有無を正確に評価できます。食後の急な血糖上昇(血糖値スパイク)は、動脈硬化による心血管疾患(脳梗塞や心筋梗塞)のリスクを高めることが知られています。
検査手順:10時間以上絶食した状態で空腹時に採血し、75gのブドウ糖を摂取。その後30分後・1時間後・2時間後に採血して血糖値を測定します。
・正常型:2時間値が140mg/dL未満
・境界型:正常型と糖尿病型のいずれにも該当しない
・糖尿病型:2時間値が200mg/dL以上
②HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)
HbA1cは、直近およそ1〜2か月間の血糖状態を示す値です。赤血球中のヘモグロビン(Hb)にブドウ糖が結合したもので、赤血球の寿命(約120日)とともに変動します。
空腹時血糖値だけの検査では食後高血糖を評価できないため、HbA1cを併せて測定することで、より正確な診断が可能になります。
・正常:4.0〜5.5%
・正常高値:5.6〜5.9%
・糖尿病予備群:6.0〜6.4%
・糖尿病型:6.5%以上
最大の特徴は、食事の影響を受けず、採血のタイミングを選ばないことです。
③その他の血糖指標
【グリコアルブミン(GA)】
過去1〜2週間の血糖の変動を示します。HbA1cより短い期間の変化を反映するため、治療開始直後の効果判定などに役立ちます。
・正常:12〜16.5%
・糖尿病:16.5%以上
【1,5-AG(1,5-アンヒドログルシトール)】
過去数日間の血糖の変動を示します。血糖値が約180mg/dL以上になって尿糖が出始めると、1,5-AGは低下します。
・正常:15〜45μg/mL
・糖尿病:15μg/mL以下
④尿検査
尿中の糖の有無を調べ、糖尿病の状態を把握します。ただし糖尿病の初期では、血糖値が高くても尿糖が陰性のことがあるため、尿検査だけで判断することはできません。
糖尿病治療中の定期検査

糖尿病は診断されて終わりではなく、合併症を防ぐために定期的な検査を続けることが重要です。合併症は自覚症状のないまま進行することが多いため、症状が出ていない段階から検査で早期に発見することが大切です。(当院で実施出来ない検査は、協力検査機関にご紹介をします)
糖尿病腎症
血液検査:血清クレアチニン、eGFR(推算糸球体濾過量)、血清タンパク・血清アルブミン
尿検査:尿蛋白、尿潜血、尿中アルブミン
糖尿病網膜症
眼底検査/視力検査/眼圧測定
糖尿病神経障害
神経伝導速度検査/足の触覚・振動覚検査
心血管疾患
心電図検査/心臓超音波検査(心エコー)/運動負荷試験/ABI検査(足関節上腕血圧比)/頸動脈超音波検査
その他の検査
腹部超音波検査(脂肪肝・肝硬変・肝がんの評価)/便潜血検査(大腸がんのスクリーニング)/CT検査
検査結果をどう読み、どう治療につなげるか
検査で「糖尿病型」や「境界型」と判定された場合、次に大切なのは血糖をどこまで下げるかという目標を、一人ひとりの状態に合わせて決めることです。
日本糖尿病学会は「熊本宣言2013」において、合併症を予防するための血糖コントロール目標をHbA1c 7.0%未満と定めています。これは、日本人の2型糖尿病患者を対象とした「熊本スタディ(Kumamoto Study)」で、HbA1cが約7%を下回ると網膜症や腎症といった細小血管合併症が現れにくくなることが示されたことなどが根拠となっています(Ohkubo Y, et al. 1995)。この試験では、厳格に血糖を管理したグループの平均HbA1cは7.1%で、そうでないグループ(9.4%)と比べて網膜症・腎症の発症・進展が有意に抑えられました。
一方で、目標は全員が同じではありません。ガイドラインでは、HbA1cの目標を大きく次の3段階に整理し、年齢・罹病期間・低血糖の危険性・サポート体制などを踏まえて個別に設定するとしています。
6.0%未満:血糖の正常化を目指せる場合の目標(食事・運動療法だけで、あるいは薬でも低血糖などの副作用なく達成できる場合)
7.0%未満:合併症予防のための目標(多くの方の基本となる目標。空腹時血糖130mg/dL未満、食後2時間血糖180mg/dL未満が目安)
8.0%未満:治療の強化が難しい場合の目標
つまり検査は「数値を出すこと」自体が目的ではなく、あなたに合った目標を決め、合併症を防ぎながら生活を続けていくための出発点です。当院では、検査結果をもとに、無理のない範囲で続けられる治療方針を一緒に考えていきます。
よくあるご質問
Q. 健診でHbA1cだけが高めでした。血糖値は正常なのですが、糖尿病でしょうか?
A. HbA1cが高めでも、血糖値との組み合わせや再検査の結果によって判定が変わります。HbA1cは過去1〜2か月の平均的な血糖状態を反映するため、その日の血糖値が正常でも高めに出ることがあります。自己判断せず、一度医療機関でご相談ください。
Q. 「境界型」と言われました。まだ糖尿病ではないので放っておいて大丈夫ですか?
A. 境界型は糖尿病ではありませんが、糖尿病へ進みやすく、動脈硬化も進行しやすい状態です。この段階で食事・運動などの生活習慣を見直すことで、糖尿病への進行を抑えられることが分かっています。定期的な検査を続けながら、早めに対策を始めることをおすすめします。
Q. 空腹時血糖値は正常なのに、なぜブドウ糖負荷試験(OGTT)をすすめられるのですか?
A. 空腹時血糖値が正常でも、食後だけ血糖が大きく上がる「食後高血糖(血糖値スパイク)」が隠れていることがあります。この状態は空腹時の検査では見つけにくく、動脈硬化のリスクにもなるため、OGTTで食後の血糖の動きを詳しく調べます。
Q. HbA1cはどのくらいを目標にすればよいですか?
A. 合併症予防のための基本的な目標はHbA1c 7.0%未満とされています(日本糖尿病学会「熊本宣言2013」)。ただし、適切な目標値は年齢や体の状態、低血糖の起こりやすさなどによって異なりますので、診察時に一人ひとりに合わせてご相談します。
Q. 検査には食事を抜いていく必要がありますか?
A. 検査項目によって異なります。空腹時血糖値やブドウ糖負荷試験は絶食が必要ですが、HbA1cは食事の影響を受けないためいつでも測定できます。
Q. 糖尿病の検査や治療は続けないといけませんか?
A. 糖尿病の合併症は自覚症状がないまま進行することが多いため、定期的な検査を続けることが大切です。自己判断で通院を中断すると、気づかないうちに合併症が進んでしまう恐れがあります。通院を続けている方ほど心血管疾患の発症が少ないという報告もあります。
参考文献・出典
日本糖尿病学会(編・著)「糖尿病診療ガイドライン2024」
日本糖尿病学会「熊本宣言2013 ―Keep your A1c below 7%―」(2013年)
Ohkubo Y, et al. Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study (Kumamoto Study). Diabetes Res Clin Pract. 1995;28(2):103-117.
診断基準の図:糖尿病 55巻7号(2012)
