糖尿病治療

糖尿病の治療は、血糖値を適切に管理し、合併症を予防することがとても大切です。治療の基本は「食事療法」「運動療法」「薬物療法」の3つの柱です。この3本柱を軸に、患者さん一人ひとりの生活スタイルや状態に合わせた治療計画を立てていきます。

治療の基本と目標値

糖尿病の治療・予防

糖尿病治療では、次の2点が大切です。

  1. 高血糖の状態を改善する
  2. 急激な血糖変動(血糖値スパイク)をできるだけ起こさせない

この基本を踏まえ、患者さんの現在の状態に合わせて治療を進めていきます。

HbA1cの目標設定

HbA1cの目標値

日本糖尿病学会は、血糖コントロールの目標となるHbA1c値を次のように定めています。

  • 血糖正常化を目指す場合:HbA1c 6.0%未満(食事・運動療法だけで、あるいは薬物療法でも低血糖などの副作用なく達成できる場合)
  • 合併症予防のための目標:HbA1c 7.0%未満(多くの方の基本となる目標。空腹時血糖130mg/dL未満、食後2時間血糖180mg/dL未満が目安)
  • 治療強化が難しい場合:HbA1c 8.0%未満

(日本糖尿病学会「熊本宣言2013 ―Keep your A1c below 7%―」)

ただし、適切な目標値は年齢・罹病期間・低血糖の起こりやすさ・サポート体制などによって異なるため、一人ひとりに合わせて設定します。特にご高齢の方では、低血糖を避けるために目標の下限も考慮した「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」が別に定められています。

血糖を良好に保つことが合併症予防につながることは、大規模な研究でも示されています。イギリスの大規模研究(UKPDS)では、HbA1cを1%下げるごとに、心筋梗塞のリスクが14%、細小血管合併症(網膜症・腎症など)のリスクが37%低下することが報告されています(Stratton IM, et al. BMJ. 2000)。

食事療法

食事療法は、血糖値の上昇を防ぐ最も基本的で効果的な方法です。血糖値を「下げる」工夫よりも、「上げすぎない」工夫をするほうが、取り組みやすく続けやすいものです。

適切なエネルギー摂取量

一日に必要なエネルギー摂取量は、次の式でおおよそ求められます。

エネルギー摂取量(kcal)= 目標体重(kg)× エネルギー係数(kcal/kg)

  • 目標体重(kg)= 身長(m)× 身長(m)× 22(65歳未満の目安)
  • エネルギー係数:軽い労作(デスクワーク中心)で25〜30、普通の労作で30〜35、重い労作で35以上

食事療法の基本原則

決められたエネルギー量の範囲内で、炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルをバランスよく摂ることが大切です。加えて、次のような工夫が食後血糖の急な上昇を抑えるのに役立ちます。

  • 野菜や海藻など食物繊維の多いものから先に食べる
  • ゆっくりよく噛んで食べる
  • 朝食を抜かず、規則正しい時間に食べる
  • 夜遅い食事や間食を控える

糖質制限について

近年よく耳にする糖質制限は、血糖値が主に食事中の糖質(炭水化物)によって上がることから、短期的には血糖値を下げる効果があります。また、インスリン分泌が抑えられることで体重減少効果も期待できます。

しかし、長期間の厳しい糖質制限は継続が難しく、栄養バランスが偏りやすいという課題があります。極端な制限による長期的な安全性についてはまだ十分に定まっていないため、当院では厳格な糖質制限を積極的にはおすすめしていません。基本的には、適切なカロリー内でバランスの取れた食事を無理なく続けることが、安全で効果的です。

運動療法

運動療法は、食事療法とともに糖尿病治療のとても重要な柱です。

【短期的な効果】 運動によって筋肉が糖を多く消費するため、血液中の余分な糖が使われ、血糖値が低下します。

【長期的な効果】 運動を続けると、インスリンの効き(インスリン感受性)が良くなります。インスリンの効きが悪い状態は、インスリンを分泌する膵臓に負担をかけ続けている状態です。運動によってインスリンの効きが改善すると膵臓の負担が軽くなり、より効率的な血糖管理ができるようになります。

また運動には、血圧を下げる、中性脂肪やコレステロールを改善するといった、他の健康効果もあります。

【具体的な進め方】 有酸素運動(ウォーキング、自転車、水泳など)を週3〜5回、1回30〜60分程度行いましょう。強さは「やや息が上がる程度」が目安です。加えて、スクワットや腕立て伏せなどの筋力トレーニング(レジスタンス運動)を組み合わせると、より効果的です。食後1〜2時間後に運動すると、食後高血糖を抑えやすくなります。

薬物治療

食事療法・運動療法を行っても血糖値が高い場合は、薬物療法を検討します。近年は種類が増え、血糖を下げるだけでなく、心臓や腎臓を守る効果や体重を減らす効果を併せ持つ薬も登場しています。年齢・合併症・生活スタイルに合わせて、一人ひとりに適した薬を選びます。

経口血糖降下薬の種類と作用機序

経口薬は作用の仕組みによって、「インスリン分泌を促す薬」「インスリンの効きを良くする薬」「糖の吸収・排泄を調整する薬」の大きく3つに分けられます。

【SGLT2阻害薬】 腎臓での糖の再吸収を抑え、尿に糖を出すことで血糖値を下げます。血糖改善だけでなく、心臓・腎臓を保護する作用や、体重減少・血圧低下の効果も報告されています。

【DPP-4阻害薬】 インクレチンというホルモンは、食後にインスリン分泌を促します。DPP-4阻害薬はこのインクレチンの分解を抑えることでインスリン分泌を促進し、さらにグルカゴン(血糖を上げるホルモン)の分泌を抑えて血糖値を改善します。低血糖のリスクが低く、使いやすい薬です。

【ビグアナイド薬(メトホルミンなど)】 肝臓での糖の産生(糖新生)を抑え、筋肉での糖の取り込みを促します。心血管を保護する作用があるとされ、2型糖尿病治療の基本薬の一つです。

【スルホニル尿素薬(SU薬)】 膵臓に作用してインスリン分泌を促します。効果は強力なため血糖を下げる力が大きい一方、低血糖に注意が必要です。

【α-グルコシダーゼ阻害薬】 小腸での糖の吸収を遅らせることで、食後高血糖を改善します。

【経口GLP-1受容体作動薬(リベルサスなど)】 血糖が高いときにインスリン分泌を促し、グルカゴン分泌を抑えます。食欲を抑える作用もあり、体重減少効果が期待されています。

注射薬による治療

内服薬で十分な血糖コントロールが得られない場合や、インスリンの分泌が大きく低下している場合には、注射薬を用います。

  • インスリン製剤:不足したインスリンを直接補います。1型糖尿病では必須の治療で、2型糖尿病でも状態に応じて用います。
  • GLP-1受容体作動薬(注射):インスリン分泌を促し、食欲を抑えて体重減少も期待できます。週1回の製剤もあります。

治療を続けることの大切さ

糖尿病の治療で最も大切なのは、「続けること」です。血糖が下がって症状が落ち着いても、自己判断で治療や通院をやめてしまうと、気づかないうちに血糖が再び上昇し、合併症が進行してしまうことがあります。

血糖を良好に保つ効果は、早く始めるほど、長く続くほど大きくなります。UKPDSでは、診断後の早い段階から血糖を良好に管理していた方は、その後の心筋梗塞や死亡のリスクが長期にわたって低く抑えられること(レガシー効果)が報告されています。「今の頑張りが、何年も先の自分を守る」——これが糖尿病治療の基本的な考え方です。

当院では、患者さん一人ひとりの生活に無理なく取り入れられる治療を一緒に考え、長く続けられるようサポートします。

よくあるご質問

Q. 糖尿病は薬を飲めば治りますか? A. 薬は血糖値を管理するための手段であり、糖尿病そのものを「治す」ものではありません。ただし、食事・運動・薬物療法を続けることで血糖を良好に保ち、合併症を防ぎながら通常どおりの生活を送ることは十分に可能です。生活習慣の改善によって薬を減らせるケースもあります。

Q. 一度薬を始めたら、一生やめられませんか? A. 必ずしもそうではありません。生活習慣の改善や体重減少によって血糖が安定し、薬を減量・中止できる方もいます。一方で、継続が望ましい場合もあります。大切なのは自己判断で中断せず、通院しながら相談して調整していくことです。

Q. HbA1cはどこまで下げればよいですか?低いほど良いのでしょうか? A. 合併症予防のための基本的な目標は7.0%未満ですが、低ければ低いほど良いとは限りません。特に薬物療法中は、下げすぎると低血糖の危険が高まります。年齢や体の状態に応じて、安全に達成できる目標を一人ひとり設定します。

Q. 食事療法というと、厳しい制限をイメージします。好きなものは食べられませんか? A. 極端に制限する必要はありません。適切なエネルギー量の範囲でバランスよく食べることが基本で、食べ方の工夫(食べる順番やタイミング)でも血糖の上がり方は変わります。無理なく続けられる方法を一緒に考えていきます。

Q. 運動する時間がなかなか取れません。それでも効果はありますか? A. まとまった運動時間が取れなくても、日常生活の中で体を動かす量を増やすだけでも効果があります。こまめに歩く、階段を使う、長時間座り続けないといった工夫でも血糖管理に役立ちます。できることから始めましょう。

Q. 血糖値の薬で低血糖が心配です。 A. 薬の種類によって低血糖の起こりやすさは異なります。DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬などは比較的低血糖を起こしにくい薬です。低血糖が心配な場合は、その点も考慮して薬を選びますので、遠慮なくご相談ください。

参考文献・出典

  • 日本糖尿病学会(編・著)「糖尿病診療ガイドライン2024」
  • 日本糖尿病学会(編・著)「糖尿病治療ガイド2024-2025」
  • 日本糖尿病学会「熊本宣言2013 ―Keep your A1c below 7%―」(2013年)
  • Stratton IM, Adler AI, Neil HA, et al. Association of glycaemia with macrovascular and microvascular complications of type 2 diabetes (UKPDS 35): prospective observational study. BMJ. 2000;321(7258):405-412.