健診の結果票を見て、多くの方が確認するのは「基準内かどうか」だと思います。ところが血糖値については、その年の数値が範囲におさまっているかどうかと同じくらい、去年と比べて上がっているか、下がっているかという“向き”が、じつは大事な情報になります。
血糖の異常は、ある日突然あらわれるわけではありません。何年もかけて少しずつ上がっていき、多くの場合は自覚症状がないまま進みます。だからこそ、「今年の1回の数値」というスナップショットよりも、去年・今年と並べたときに見えてくる変化の線のほうが、体の状態をよく語ってくれることがあります。
とはいえ、「上がっていた」というだけで糖尿病だと決まるわけではありません。この記事では、去年より血糖値が上がっていたときに、その数字をどう読み、どの段階で相談・受診を考えればよいのかを、具体的な目安とともに整理します。
まず知っておきたい ―「1回の数値」と「変化の向き」は別の情報
血糖に関する健診項目には、性格の違う2つの数字があります。
- 空腹時血糖値:採血したその瞬間の血糖。前日の食事、当日の絶食時間、睡眠不足、体調などで動きやすい「瞬間値」です。
- HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー):過去1〜2か月の血糖の平均を映す指標。直前の食事に左右されにくく、生活の“平均点”を表します。

去年より数値が上がっていたとき、その差が本当の変化なのか、測定条件のたまたまの違いなのかは、1回では見分けにくいものです。空腹時血糖は特に揺れやすいため、「去年98、今年108」といった程度の差は、体調や検査条件でも起こりえます。一方でHbA1cは条件に左右されにくいので、HbA1cがじわじわ上がっているときのほうが、変化として重く受け止める価値があります。
ポイントは、慌てて自己判断しないこと。そのうえで、上がったという「向き」だけは覚えておくことです。
数値の目安 ― どこからが「相談」で、どこからが「受診」か
健診では、血糖について2段階の判定ラインが使われています。厚生労働省の基準では、おおよそ次のように分かれます。

| 段階 | 空腹時血糖 | HbA1c(NGSP) | 意味あい |
|---|---|---|---|
| 保健指導レベル | 100mg/dL 以上 | 5.6% 以上 | 生活を見直す入口。まだ病気ではない |
| 受診勧奨レベル | 126mg/dL 以上 | 6.5% 以上 | 医療機関で相談を勧められる数値 |
このあいだ、空腹時血糖でいえばおおよそ110〜125mg/dL、HbA1cでいえば6.0〜6.4%あたりは、正常でも糖尿病でもない**境界の領域(いわゆる予備群)**と呼ばれます。

ここで誤解が多いのですが、受診勧奨レベルを超えた=すぐ薬、ではありません。また、HbA1cが1回6.5%を超えた=糖尿病確定、でもありません。糖尿病の診断は、血糖値とHbA1cの組み合わせを見るか、日を変えた再検査で確認するのが原則で、HbA1cだけを繰り返して確定することはできない、と定められています。つまり「1回の数値だけでは決めない」のが正式な手順です。
「去年より上がった」をどう読むか
上昇の“いま居る位置”によって、意味あいは変わります。
- 正常の範囲内だが、年々じわじわ上がっている まだ病気ではありませんが、予備群へ向かう入口にいる可能性があります。じつはこの段階が、最も生活の改善が効きやすい時期です。
- 境界の領域に入ってきた(予備群) 放置すると糖尿病へ進みやすい一方、ここで戻せる可能性が高い段階でもあります。海外の大規模研究(DPP)では、食事・運動を中心とした生活改善によって、糖尿病の発症が約58%減ったと報告されています。目標はおおむね「体重の7%減」と「週150分の運動」。日本人の耐糖能異常の方を対象とした研究でも、同じように発症を抑えられることが示されています。
- すでに受診勧奨レベルを超えている 早めに相談したい段階です。ただし前述のとおり、いきなり治療が始まるのではなく、まず再検査と生活面の確認から入るのが一般的です。
いずれの位置でも、「上がった」という向きは、戻しやすい今のうちに一度確認しておこうというサインとして受け取るのが現実的です。
急いで相談・受診した方がよいサイン

数値だけでなく、体からのサインも判断材料になります。次のような症状があるときは、血糖がかなり高くなっている可能性があるため、数日以内の受診をおすすめします。
- のどの渇きが強く、水やお茶をたくさん飲むようになった
- 尿の量や回数が明らかに増えた
- 食べているのに体重が短期間で減ってきた
- 強い倦怠感が続く
さらに、意識がぼんやりする、呼吸が荒い、強い腹痛や吐き気を伴うといった場合は、高血糖による緊急の状態が疑われます。この場合は救急医療機関の受診が必要です。
症状がまったくなくても、空腹時血糖126mg/dL以上、またはHbA1c 6.5%以上が出ていたときは、数週間以内をめどに一度ご相談ください。
医療機関では何を調べるか

受診すると、数値の再確認と、他のリスクとの重なりを一緒に見ていきます。
- 問診・診察:症状、家族歴、これまでの体重や生活の経過
- 血液検査:空腹時血糖・HbA1cの再確認(必要に応じて随時血糖も)
- 尿検査:尿糖・尿ケトン・尿たんぱくの確認
- 必要に応じた追加検査:境界の見極めが必要なときは75gブドウ糖負荷試験(OGTT)を検討
- 重なりの評価:血圧、脂質、腎機能(eGFR・尿アルブミン)、心電図など。血糖の異常は高血圧・脂質異常・腎臓の状態と連動しやすいためです
- 合併症の確認:目の網膜の状態などは眼科での検査が必要になることがあります
つつじヶ丘駅前内科クリニックでできること

当院(東京都調布市・つつじヶ丘駅前/内科・腎臓内科・アレルギー科)では、健診結果を持ってのご相談に対応しています。
- 健診結果票を見ながらの相談(数値の意味と、いま必要な対応の整理)
- 血液検査での血糖・HbA1cの再確認、尿検査
- 血圧測定・心電図・超音波検査による、生活習慣病の重なりの評価
- 腎機能(eGFR・尿検査)のチェック
- 糖尿病・境界域の生活面のご相談、必要な場合の治療
- 睡眠時無呼吸症候群の自宅簡易検査(睡眠の質は血糖と関わることがあります)
ご予約はLINE・WEB・電話から可能で、予約優先制、キャッシュレス決済に対応しています。対象は小学生以上です。
当院で対応できない場合
当院でできないことは、はっきりお伝えし、必要に応じてご紹介します。
- 目の網膜の精密検査(糖尿病網膜症の評価)は眼科での対応になります
- CT・MRIなどの画像検査が必要な場合は、連携医療機関をご案内します
- 教育入院やインスリン導入のための入院が必要な場合は、病院へご紹介します
- 高血糖による緊急の状態など、緊急性が高い場合は救急医療機関の受診が必要です
よくある質問
Q. 去年は正常だったのに、今年いきなり上がっていました。もう糖尿病ですか? 1年の変化や1回の数値だけで糖尿病と決めることはできません。まずは再検査で、本当の変化かどうかを確かめます。
Q. HbA1cが1回だけ6.5%を超えました。確定ですか? HbA1cの反復だけで確定することはできない決まりになっています。血糖値との組み合わせ、または日を変えた再検査で確認します。
Q. 症状が何もないのに受診する意味はありますか? 2型糖尿病の初期はほとんど症状が出ません。むしろ無症状の今こそ、生活の見直しで戻しやすい時期です。
Q. 甘い物を控えれば下がりますか? 糖分だけの問題ではありません。体重・運動量・食事全体・睡眠なども関わります。何を優先すべきかは人によって違うので、一緒に整理しましょう。
Q. 受診したらすぐ薬になりますか? 多くの場合、まず生活改善と再評価から始めます。薬を使うかどうかは、数値と体の状態を見て判断します。
まとめ
- 血糖値は「1回の数値」も大事ですが、「去年からの変化の向き」も大事な情報です。
- ただし、上がっていたというだけで糖尿病が決まるわけではありません。診断は再検査や組み合わせで慎重に行います。
- 空腹時血糖126mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上、または口の渇き・多尿・体重減少があれば、早めのご相談を。
- 「上がった」は、まだ戻しやすい今のうちに動くための合図です。健診結果を持って、一度ご相談ください。
参考文献
- 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病診療ガイドライン2024. 南江堂, 2024.(糖尿病の診断基準・境界型の分類)URL: https://www.jds.or.jp/
- 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療ガイド2024. 文光堂, 2024.(診断のフローチャート・判定区分)
- 厚生労働省. 標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)―保健指導判定値・受診勧奨判定値. URL: https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省. 令和6年 国民健康・栄養調査結果の概要, 2025.(「糖尿病が強く疑われる者」約1,100万人)URL: https://www.mhlw.go.jp/
- Knowler WC, et al. Reduction in the incidence of type 2 diabetes with lifestyle intervention or metformin. N Engl J Med. 2002;346(6):393-403. DOI: 10.1056/NEJMoa012512.(生活習慣介入で発症約58%減)
- Kosaka K, Noda M, Kuzuya T. Prevention of type 2 diabetes by lifestyle intervention: a Japanese trial in IGT males. Diabetes Res Clin Pract. 2005;67(2):152-162.(日本人の耐糖能異常者における生活介入の予防効果)
16. 執筆者情報

つつじヶ丘駅前内科クリニック院長
医学博士・腎臓専門医・透析専門医・内科認定医
小出高彰
