糖尿病の治療では、血糖値を下げることが目標になりますが、下がり過ぎてしまう「低血糖」にも注意が必要です。とくにインスリンや一部の飲み薬を使っている方では、低血糖は身近な問題です。低血糖は、正しく気づいて素早く対処すれば大きな心配はいりませんが、放置すると意識を失うなど危険な状態になることもあります。今回は、低血糖とはどのような状態か、その症状の見分け方、そして正しい対処法・予防法を、順を追って解説します。低血糖はご本人だけでなく、ご家族にも知っておいていただきたい内容です。いざというときのために、ぜひ目を通しておいてください。
低血糖とは
低血糖とは、血液中のブドウ糖(血糖)が少なくなり過ぎた状態のことです。米国糖尿病学会(ADA)では、血糖値が70mg/dL未満を低血糖と定義しています。さらに54mg/dL未満になると、体にとってより危険なレベルとされ、注意が必要です。そして、自分ひとりでは対処できず、周りの人の助けが必要になるほど重い状態を「重症低血糖」と呼びます。
低血糖は、主にインスリン注射や、インスリンの分泌を促すタイプの飲み薬(SU薬など)を使っている方に起こりやすく、食事を抜いたり遅らせたりしたとき、いつもより多く体を動かしたとき、薬の量が多かったとき、空腹での飲酒などが引き金になります。逆にいえば、食事・運動・薬・お酒といった日々の生活の中に、低血糖を起こしやすくなる場面が潜んでいるということです。どんなときに起こりやすいのかを知っておくだけでも、多くの低血糖は防ぐことができます。
低血糖のサインを見逃さない

低血糖の症状は、血糖が下がる程度によって段階的に現れます。
まず、比較的軽い段階では、体が血糖を上げようとして、冷や汗、動悸、手のふるえ、強い空腹感、不安感、顔色が悪くなる、といった症状が出ます。これらは「はやく糖分をとりなさい」という体からの警告サインです。
さらに血糖が下がると、脳へのエネルギーが不足し、頭痛、目のかすみ、集中力の低下、強い眠気、ろれつが回らない、といった症状が現れます。そのまま進むと、意識がもうろうとする、けいれん、意識を失う、といった重症の状態に至ることもあります。
注意したいのが「無自覚性低血糖」です。低血糖を繰り返していると、本来出るはずの初期の警告サインが出にくくなり、気づかないうちに重症の低血糖に陥ってしまうことがあります。低血糖をたびたび起こす方は、必ず主治医に相談してください。
低血糖が起きたときの対処 ―― 15のルール

低血糖かな、と感じたら、我慢せずすぐに糖分を補給します。基本となるのが「15のルール」です。まず、ブドウ糖10〜15g(またはブドウ糖を含むジュース約150〜200mL)をとります。そして15分待って血糖を測り、まだ低ければ、もう一度同じ量をとります。これを回復するまで繰り返します。回復しても、次の食事まで時間がある場合は、おにぎりなどの軽食をとって、再び下がるのを防ぎましょう。
ここで一つ、とても大切な注意点があります。α(アルファ)-グルコシダーゼ阻害薬という種類の薬を飲んでいる方は、砂糖では血糖が上がりにくいため、必ず「ブドウ糖」をとってください。 この薬は砂糖の分解・吸収をゆっくりにする働きがあるため、低血糖のときは砂糖ではなく、ブドウ糖そのものが必要になります。ご自身の薬に当てはまるかどうか、あらかじめ確認しておきましょう。
なお、意識がもうろうとしていて自分で安全に飲み込めないときに、無理に飲ませるのは危険です。その場合はすぐに救急要請をしてください。ご家族がグルカゴンという緊急用の薬を用意している場合は、その使い方も事前に確認しておくと安心です。
ご家族・周囲の方へ
低血糖は、ご本人だけでなく、周りの方の理解も大きな支えになります。糖尿病の治療を受けている方が、急に汗をかいて顔色が悪くなった、様子がおかしい、受け答えがはっきりしない――そんなときは、低血糖を疑ってください。意識があって自分で飲み込める状態であれば、ブドウ糖やジュースをすすめてあげましょう。反対に、意識がはっきりせず、安全に飲み込めそうにないときは、口に無理に入れず、ただちに救急車を呼んでください。日ごろから、ご家族が「低血糖のときはどうするか」を一緒に知っておくことが、いざというときの安心につながります。
なぜ低血糖を軽く見てはいけないのか
低血糖は、その場のつらさだけの問題ではありません。強い低血糖は、転倒によるけがや交通事故の原因になるほか、心臓にも負担をかけます。研究では、重症低血糖を起こした人は、そうでない人に比べて、心血管の病気や死亡のリスクが高くなることが報告されており、その関係は低血糖が重いほど強くなります。だからこそ、低血糖は「起きたら対処する」だけでなく、「なるべく起こさない」ことが大切なのです。血糖はただ低ければよいというものではなく、高過ぎず低過ぎない、安定した状態を保つことが、長い目で見て体を守ることにつながります。
低血糖を防ぐために

低血糖を防ぐには、食事の時間を規則正しく保ち、極端な欠食を避けることが基本です。いつもより運動量が多くなりそうなときは、あらかじめ補食をとる、薬の量を主治医と相談しておくといった備えが役立ちます。空腹での飲酒は低血糖を招きやすいため注意しましょう。そして、外出時にはいつでも糖分を補給できるよう、ブドウ糖やあめを携帯しておくと安心です。とくに車を運転する方は、運転前に血糖が低くないかを意識し、低血糖のサインを感じたら無理をせず車を止めて糖分をとりましょう。糖尿病であることが分かるカードやお薬手帳を持っておくと、いざというとき周囲の助けにもつながります。
低血糖が心配な方、実際にたびたび低血糖を起こしている方は、薬の種類や量の調整で改善できることも多くあります。当院までお気軽にご相談ください。低血糖を上手に避けながら、無理なく血糖をコントロールしていきましょう。
参考文献
- American Diabetes Association Professional Practice Committee. 6. Glycemic Goals and Hypoglycemia: Standards of Care in Diabetes—2025. Diabetes Care. 2025;48(Supplement_1):S128–S145.
- Yun JS, Park YM, Han K, et al. Severe hypoglycemia and the risk of cardiovascular disease and mortality in type 2 diabetes: a nationwide population-based cohort study. Cardiovascular Diabetology. 2019;18:103.
