
健診の紙に「要精査」と書かれていた。あるいは診察室で「糖尿病ですね」と言われた。家に帰って冷蔵庫を開け、いつもの缶ビールを手に取ったところで、ふと手が止まる ―― これ、もう飲んじゃいけないやつなのかな。
そう思って、この記事にたどり着いた方が多いのではないかと思います。金曜の一杯、風呂上がりの一本、仕事帰りの付き合い。生活の一部になっていたものを、いきなり「禁止」と言われるのは、想像以上にこたえます。
先にお伝えしておきます。糖尿病だからといって、多くの方はお酒を完全にやめる必要はありません。ただし、「何をどれだけ、どう飲むか」で体への影響がかなり変わります。そして、多くの人が心配している「血糖値が上がること」よりも、実はもっと注意してほしいことがあります。この記事では、そのあたりを順番に整理していきます。
先に結論を ― 多くの方は、やめなくて大丈夫です
血糖のコントロールが安定していて、進行した合併症がなく、飲酒を避けるべき薬を使っていなければ、適量のお酒を楽しむことはできます。ADA(米国糖尿病学会)も、条件が整っていれば糖尿病のある人が一般の人と同じ範囲で飲んでよい、という考え方をとっています。
ただし「適量」は、多くの人が思うより少なめです。そして「自分は大丈夫な側なのか」は、飲んでいる薬や体の状態によって変わります。ここを飛ばして量の話だけしても意味がないので、まずはお酒が体の中で何をしているのかから見ていきます。
お酒は血糖を「上げる」だけではありません
「お酒は糖分が多いから血糖が上がる」。半分正しくて、半分足りません。お酒が血糖に与える影響は、逆向きの二つが同時に起きます。
ひとつは上げる方向。ビールや日本酒、甘いカクテルやリキュールには糖質が含まれていて、飲めばその分、血糖は上がります。おつまみが揚げ物や締めのラーメンなら、なおさらです。
もうひとつが、意外と知られていない下げる方向です。ふだん肝臓は、血糖が下がりすぎないよう、蓄えたグリコーゲンをブドウ糖に変えて血液に送り出しています。ところがアルコールが体に入ると、肝臓はまずアルコールの分解を優先し、この「血糖を送り出す働き」が後回しになります。結果として血糖が下がり、低血糖が起きやすくなるのです。

つまりお酒は、上げながら下げる。飲んだ直後は糖質で上がり、しばらくすると今度は下がる、という乱高下が起きることがあります。血糖の振れ幅が大きいこと自体が、体にとってはあまり良いことではありません。
本当に怖いのは、翌朝までついてくる低血糖
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
アルコールによる低血糖は、飲んでいる最中だけでなく、数時間後、ときには翌日まで(最大で24時間ほど)遅れて起きることがあります。晩酌のあと機嫌よく眠って、夜中や朝方に血糖が下がる、というパターンです。

やっかいなのは、低血糖の症状 ―― ふらつき、めまい、汗、ろれつが回らない、ぼんやりする ―― が、酔っ払った状態と見分けにくいことです。周りの人も「飲みすぎたんだな」と思って、低血糖に気づけないことがあります。
だからこそ、飲むなら次のことを守ってください。
- 空腹のまま飲まない。食事と一緒に、または炭水化物を含むものを食べながら飲む
- お酒で食事を「置き換え」ない(飲むから夕飯は抜く、はいちばん危険です)
- 飲んだ日は、寝る前の血糖を意識する。血糖測定をしている方は、飲酒前後と就寝前を確認する
- 一人で大量に飲まない。糖尿病であることが周囲に分かるようにしておくと、いざというとき助けてもらえます
「量」より先に確認したいのは、飲んでいる薬
「自分はお酒に気をつけるべき側か」を分けるのが、使っている薬です。
インスリン注射や、SU薬(スルホニル尿素薬)などインスリンの分泌を促すお薬を使っている方は、もともと低血糖が起こりやすく、そこにアルコールが重なると危険性が上がります。飲む前に、必ず主治医と相談してください。量を控える、飲む日は食事の摂り方を工夫するなど、個別の注意が必要になります。
メトホルミンを使っている方も注意が必要です。過度の飲酒は、まれですが乳酸アシドーシスという重い状態のリスクを高めるため、深酒は避けるべきとされています。
一方で、食事・運動だけで管理している方や、低血糖を起こしにくいタイプの薬だけを使っている方は、相対的にリスクは低めです。ただ「低め」であって「ゼロ」ではないので、量の話は次に進みます。
どれくらいなら? ― お酒の量ではなく「純アルコール量」で考える
「ビール1本ならいい?」という質問はよく受けますが、お酒の種類ごとに度数が違うので、コップの数では管理できません。共通のものさしになるのが、**純アルコール量(g)**です。計算式はシンプルです。
純アルコール量(g)= 量(ml)× 度数(%)÷100 × 0.8
たとえばビール500ml(5%)なら、500 × 0.05 × 0.8 = 20g です。
この20gが、ひとつの目安になります。厚生労働省の飲酒ガイドライン(2024年)では、生活習慣病のリスクが上がる量を「1日あたり純アルコール男性40g以上、女性20g以上」としていますが、これは「ここまで飲んでいい」という許容量ではありません。飲む量が少ないほどリスクは少なく、そもそも「完全に安全な量」は確立されていない、というのが今の考え方です。以前よく言われた「少量なら体にいい」という説(Jカーブ)も、近年は世界的に見直されています。
そのうえで実際の目安として、健診・保健指導でおなじみの「節度ある適度な飲酒」は1日純アルコール約20gまで。日本糖尿病学会の治療ガイドでも、糖尿病のある方で一般に許容される範囲は概ね1日25g程度まで(日本酒1合、ビール中瓶1本=500mlくらい)とされ、休肝日を設けること、そして主治医と相談することがすすめられています。女性・高齢者・お酒に弱い体質の方は、その半分ほどとより控えめに考えてください。
純アルコール量で見ると、いつものお酒はこのくらいです。
| お酒 | 量の目安 | 純アルコール量 |
|---|---|---|
| ビール(5%) | 500ml | 約20g |
| 日本酒(15%) | 1合(180ml) | 約22g |
| 焼酎(25%) | 1合(180ml) | 約36g |
| ワイン(12%) | グラス2杯(240ml) | 約23g |
| ハイボール(ウイスキー30ml・40%) | 1杯 | 約10g |
| ストロング系チューハイ(9%) | 350ml缶1本 | 約25g |
注意してほしいのが、いちばん下のストロング系チューハイです。飲み口が軽いので水のように飲めてしまいますが、350mlの1本で純アルコールは25gを超えます。「1本だけ」のつもりが、実は日本酒1合以上を飲んでいることになります。
同じ一杯でも違う ― 選び方と飲み方のコツ
血糖のことを考えるなら、選び方と飲み方で差がつきます。
糖質の少ないお酒を選ぶ。焼酎、ウイスキー、ウォッカ、ジンといった蒸留酒は糖質をほとんど含みません(ただしカロリーはあります)。一方、ビール・日本酒・甘口ワイン・甘いカクテル・リキュールは糖質が多めです。ハイボールや焼酎の水割り・お湯割りは、比較的血糖に響きにくい選択肢です。

割り方に気をつける。せっかく糖質ゼロの蒸留酒でも、コーラやジンジャーエール、ジュースで割れば糖質を足すことになります。水や炭酸水(無糖)で割るのがおすすめです。
おつまみを味方につける。空腹対策も兼ねて、飲む前や飲みながら何か食べるのは大切ですが、揚げ物やスナック、締めの甘い物・炭水化物はカロリーも糖質も高くなりがちです。たんぱく質や野菜を中心に選ぶと、血糖の急な上昇を抑えやすくなります。
「糖質ゼロ」「ノンアル」も表示を見る。糖質ゼロビールは糖質を抑えていますがアルコールは含みます。逆にノンアルコール飲料の中には、水あめや果糖ブドウ糖液糖など糖類を加えたものもあります。原材料表示を確認しましょう。
そしてアルコールそのものが、栄養のないエンプティカロリー(1gあたり約7kcal)です。飲む量が増えると体重が増え、血糖の管理はさらに難しくなります。「糖質ゼロだからいくら飲んでもいい」ではない、ということは覚えておいてください。
こんなときは飲まない、すぐ相談する
次のような場合は、飲む前に必ず主治医に相談するか、飲酒を控えてください。
- 血糖のコントロールが乱れている(HbA1cが目標から大きく外れている)
- 糖尿病の合併症(腎臓・目・神経など)が進んでいる
- 膵炎を起こしたことがある、肝臓や腎臓の機能が低下している
- インスリンやSU薬など、低血糖を起こしやすい薬を使っている
- 妊娠中の方

また、飲んだあとに次のような症状が出たら、低血糖のサインかもしれません。ためらわず糖分(ブドウ糖やジュースなど)をとり、改善しない・意識がもうろうとする場合は救急要請を含めた対応が必要です。
- 強い空腹感、冷や汗、動悸、手の震え
- ふらつき、めまい、ろれつが回らない
- ぼんやりする、様子がおかしいと周囲に言われる
「飲みすぎただけ」と自己判断せず、糖尿病がある方は低血糖の可能性をいつも頭の片隅に置いておいてください。
医療機関では何を調べるか
飲酒と糖尿病について相談に来られたとき、医療機関では次のようなことを確認していきます。
- 問診:どんなお酒をどれくらい、どんな頻度で飲んでいるか。使っている薬、低血糖の経験の有無
- 血液検査:血糖値、HbA1c(過去1〜2か月の血糖の状態)、肝機能、中性脂肪、尿酸値など。お酒は肝機能・中性脂肪・尿酸値にも影響します
- 尿検査・血圧測定:合併症や高血圧の有無の確認
- 必要に応じて、腹部の超音波検査で脂肪肝や肝臓の状態を確認することもあります
これらをもとに、「あなたの場合、どれくらいなら大丈夫か」「どの薬とお酒の組み合わせに注意すべきか」を、一般論ではなく個別に相談していきます。
つつじヶ丘駅前内科クリニックでできること
当院(東京都調布市・つつじヶ丘駅前)では、糖尿病の診療とあわせて、お酒との付き合い方の相談を承っています。

- 内科・糖尿病の診察、生活習慣病の相談
- 血液検査(血糖、HbA1c、肝機能、中性脂肪、尿酸値など)、尿検査
- 血圧測定、心電図検査、腹部超音波検査
- 健診で「血糖値が高い」と指摘された結果のご相談
- 飲酒量・飲み方を含めた、生活に合わせた無理のない目標の相談
- 予約は LINE・WEB・電話から(予約優先制/キャッシュレス決済対応、小学生以上が対象)
「お酒をやめさせるための場所」ではありません。飲む習慣も含めて、その方の生活の中で続けられる形を一緒に探していく、という姿勢で診療しています。
当院で対応できない場合
- 入院を要する重い低血糖や、緊急の処置が必要な場合は、病院での対応が必要になります。連携医療機関をご案内します
- CT・MRIなどの画像検査が必要な場合は、当院では実施していないため、連携先へご紹介します
- お酒のコントロールがご自身では難しく、アルコール依存が疑われる場合は、専門的な治療が必要です。精神科・専門医療機関へおつなぎします
当院でできないことは曖昧にせず、必要なときは適切な医療機関へ橋渡しをします。
11. FAQ(よくある質問)
Q. 糖尿病になったら、お酒は一生禁止ですか? 必ずしもそうではありません。血糖の管理が安定し、進行した合併症がなく、飲酒を避けるべき薬を使っていなければ、適量を楽しめる方が多いです。ただし判断は人によって違うので、主治医に確認してください。
Q. ビールと焼酎(ハイボール)なら、どちらがいいですか? 糖質だけを見れば、焼酎やハイボール(蒸留酒)のほうがビールより血糖に響きにくいです。ただし蒸留酒にもカロリーはあり、割り方(無糖の水・炭酸で)と量が大事です。糖質ゼロでも飲みすぎれば意味がありません。
Q. 糖質ゼロのお酒なら、いくら飲んでも大丈夫ですか? いいえ。糖質がゼロでもアルコールは含まれており、カロリーもあります。飲みすぎれば低血糖・体重増加・肝臓への負担につながります。「ゼロ=無制限」ではありません。
Q. 飲んだ翌朝に低血糖が起きることがあると聞きました。本当ですか? 本当です。アルコールの影響で、飲酒後から翌日まで(最大24時間ほど)遅れて血糖が下がることがあります。空腹での飲酒を避け、寝る前の血糖を意識し、食事を抜かないことが予防になります。
Q. 休肝日は必要ですか? はい。肝臓を休めるために、週に2日以上の休肝日をおすすめします。毎日飲む習慣がある方ほど、意識して設けてみてください。
Q. どれくらいから「飲みすぎ」ですか? 1回の飲酒で純アルコール60g以上(ビールなら1.5リットル相当)は「一時多量飲酒」とされ、避けるべき飲み方です。まずはご自分がいつもどれくらい飲んでいるか、純アルコール量で計算してみることをおすすめします。
参考文献
- 厚生労働省. 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(2024年2月). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38541.html
- 厚生労働省 e-ヘルスネット. アルコールと糖尿病. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-013.html
- 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療ガイド2024. 文光堂, 2024.
- American Diabetes Association. Alcohol & Diabetes / Standards of Care in Diabetes(Lifestyle Management). https://diabetes.org/health-wellness/alcohol-and-diabetes
- 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会. 糖尿病標準診療マニュアル2025(一般診療所・クリニック向け). https://human-data.or.jp/wp-content/uploads/2025/03/DMmanual_2025.pdf
執筆者情報

つつじヶ丘駅前内科クリニック院長
医学博士・腎臓専門医・透析専門医・内科認定医
小出高彰
